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高野聖その46
歩行《ある》くには此《こ》の方《はう》が心細《こゝろぼそ》い、あたりがばツとして居《ゐ》ると便《たより》がないよ。勿論《もちろん》飛騨越《ひだごゑ》と銘《めい》を打《う》つた日《ひ》には、七|里《り》に一|軒《けん》十|里《り》に五|軒《けん》といふ相場《さうば》、其処《そこ》で粟《あは》の飯《めし》にありつけば都合《つがふ》も上《じやう》の方《はう》といふことになつて居《を》ります。其《そ》の覚悟《かくご》のことで、足《あし》は相応《さうおう》に達者《たツしや》、いや屈《くつ》せずに進《すゝ》んだ進《すゝ》んだ。すると、段々《だん/″\》又《また》山《やま》が両方《りやうはう》から逼《せま》つて来《き》て、肩《かた》に支《つか》へさうな狭《せま》いことになつた、直《す》ぐに上《のぼり》。
さあ、之《これ》からが名代《なだい》の天生峠《あまふたうげ》と心得《こゝろえ》たから、此方《こツち》も其気《そのき》になつて、何《なに》しろ暑《あつ》いので、喘《あへ》ぎながら、先《ま》づ草鞋《わらぢ》の紐《ひも》を締直《しめなほ》した。
作品:高野聖
作者:泉鏡太郎
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底本:「新編 泉 鏡花集 第八巻」岩波書店
2004(平成16)年1月7日第1刷発行
底本の親本:「高野聖」左久良書房
1908(明治41)年2月20日
初出:「新小説 第五年第三巻」春陽堂
1900(明治33)年2月1日
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:砂場清隆
校正:門田裕志
2007年2月12日作成
青空文庫作成ファイル:
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(例)参謀本部《さんぼうほんぶ》
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