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高野聖その59
世《よ》の譬《たとへ》にも天生峠《あまふたうげ》は蒼空《あをぞら》に雨《あめ》が降《ふ》るといふ人《ひと》の話《はなし》にも神代《じんだい》から杣《そま》が手《て》を入《い》れぬ森《もり》があると聞《き》いたのに、今《いま》までは余《あま》り樹《き》がなさ過《す》ぎた。
今度《こんど》は蛇《へび》のかはりに蟹《かに》が歩《ある》きさうで草鞋《わらぢ》が冷《ひ》えた。暫《しばら》くすると暗《くら》くなつた、杉《すぎ》、松《まつ》、榎《えのき》と処々《ところ/″\》見分《みわ》けが出来《でき》るばかりに遠《とほ》い処《ところ》から幽《かすか》に日《ひ》の光《ひかり》の射《さ》すあたりでは、土《つち》の色《いろ》が皆《みな》黒《くろ》い。中《なか》には光線《くわうせん》が森《もり》を射通《いとほ》す工合《ぐあひ》であらう、青《あを》だの、赤《あか》だの、ひだが入《い》つて美《うつく》しい処《ところ》があつた。
作品:高野聖
作者:泉鏡太郎
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底本:「新編 泉 鏡花集 第八巻」岩波書店
2004(平成16)年1月7日第1刷発行
底本の親本:「高野聖」左久良書房
1908(明治41)年2月20日
初出:「新小説 第五年第三巻」春陽堂
1900(明治33)年2月1日
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:砂場清隆
校正:門田裕志
2007年2月12日作成
青空文庫作成ファイル:
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