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高野聖その268
其《そ》の頃《ころ》からいつとなく感得《かんとく》したものと見《み》えて、仔細《しさい》あつて、那《あ》の白痴《ばか》に身《み》を任《まか》せて山《やま》に籠《こも》つてからは神変不思議《しんぺんふしぎ》、年《とし》を経《ふ》るに従《したが》ふて神通自在《じんつうじざい》ぢや、はじめは体《からだ》を押《お》つけたのが、足《あし》ばかりとなり、手《て》さきとなり、果《はて》は間《あひだ》を隔《へだ》てゝ居《ゐ》ても、道《みち》を迷《まよ》ふた旅人《たびゞと》は嬢様《ぢやうさま》が思《おも》ふまゝはツといふ呼吸《いき》で変《へん》ずるわ。
と親仁《おやぢ》が其時《そのとき》物語《ものがた》つて、御坊《ごばう》は、孤家《ひとつや》の周囲《ぐるり》で、猿《さる》を見《み》たらう、蟇《ひき》を見《み》たらう、蝙蝠《かうもり》を見《み》たであらう、兎《うさぎ》も蛇《へび》も皆《みんな》嬢様《ぢやうさま》に谷川《たにがは》の水《みづ》を浴《あ》びせられて、畜生《ちくしやう》にされたる輩《やから》!
作品:高野聖
作者:泉鏡太郎
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底本:「新編 泉 鏡花集 第八巻」岩波書店
2004(平成16)年1月7日第1刷発行
底本の親本:「高野聖」左久良書房
1908(明治41)年2月20日
初出:「新小説 第五年第三巻」春陽堂
1900(明治33)年2月1日
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:砂場清隆
校正:門田裕志
2007年2月12日作成
青空文庫作成ファイル:
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《》:ルビ
(例)参謀本部《さんぼうほんぶ》
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(例)柳《やな》ヶ|瀬《せ》では
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