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高野聖その138
其《そ》の心地《こゝち》の得《え》もいはれなさで、眠気《ねむけ》がさしたでもあるまいが、うと/\する様子《やうす》で、疵《きず》の痛《いた》みがなくなつて気《き》が遠《とほ》くなつてひたと附《くツ》ついて居《ゐ》る婦人《をんな》の身体《からだ》で、私《わし》は花《はな》びらの中《なか》へ包《つゝ》まれたやうな工合《ぐあひ》。
山家《やまが》の者《もの》には肖合《にあ》はぬ、都《みやこ》にも希《まれ》な器量《きりやう》はいふに及《およ》ばぬが弱々《よわ/\》しさうな風采《ふう》ぢや、背《せなか》を流《なが》す内《うち》にもはツ/\と内証《ないしよう》で呼吸《いき》がはづむから、最《も》う断《ことは》らう/\と思《おも》ひながら、例《れい》の恍惚《うつとり》で、気《き》はつきながら洗《あら》はした。
作品:高野聖
作者:泉鏡太郎
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底本:「新編 泉 鏡花集 第八巻」岩波書店
2004(平成16)年1月7日第1刷発行
底本の親本:「高野聖」左久良書房
1908(明治41)年2月20日
初出:「新小説 第五年第三巻」春陽堂
1900(明治33)年2月1日
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:砂場清隆
校正:門田裕志
2007年2月12日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)参謀本部《さんぼうほんぶ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)柳《やな》ヶ|瀬《せ》では
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「さんずい+散」、36-13]《しぶき》
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ばら/\と
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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