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高野聖その224
不思議《ふしぎ》や、唄《うた》つた時《とき》の白痴《ばか》の声《こゑ》は此《この》話《はなし》をお聞《き》きなさるお前様《まへさま》は固《もと》よりぢやが、私《わし》も推量《すゐりやう》したとは月鼈雲泥《げつべつうんでい》、天地《てんち》の相違《さうゐ》、節廻《ふしまは》し、あげさげ、呼吸《こきふ》の続《つゞ》く処《ところ》から、第《だい》一|其《そ》の清《きよ》らかな涼《すゞ》しい声《こゑ》といふ者《もの》は、到底《たうてい》此《こ》の少年《せうねん》の咽喉《のど》から出《で》たのではない。先《ま》づ前《さき》の世《よ》の此《この》白痴《ばか》の身《み》が、冥途《めいど》から管《くだ》で其《そ》のふくれた腹《はら》へ通《かよ》はして寄越《よこ》すほどに聞《きこ》えましたよ。
私《わし》は畏《かしこま》つて聞《き》き果《は》てると膝《ひざ》に手《て》をついたツ切《きり》何《ど》うしても顔《かほ》を上《あ》げて其処《そこ》な男女《ふたり》を見《み》ることが出来《でき》ぬ、何《なに》か胸《むね》がキヤキヤして、はら/\と落涙《らくるゐ》した。
作品:高野聖
作者:泉鏡太郎
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底本:「新編 泉 鏡花集 第八巻」岩波書店
2004(平成16)年1月7日第1刷発行
底本の親本:「高野聖」左久良書房
1908(明治41)年2月20日
初出:「新小説 第五年第三巻」春陽堂
1900(明治33)年2月1日
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:砂場清隆
校正:門田裕志
2007年2月12日作成
青空文庫作成ファイル:
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《》:ルビ
(例)参謀本部《さんぼうほんぶ》
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(例)柳《やな》ヶ|瀬《せ》では
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(例)ばら/\と
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