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高野聖その264
父親《てゝおや》の医者《いしや》といふのは、頬骨《ほゝぼね》のとがつた髯《ひげ》の生《は》へた、見得坊《みえばう》で傲慢《がうまん》、其癖《そのくせ》でもぢや、勿論《もちろん》田舎《ゐなか》には苅入《かりいれ》の時《とき》よく稲《いね》の穂《ほ》が目《め》に入《はい》ると、それから煩《わづ》らう、脂目《やにめ》、赤目《あかめ》、流行目《はやりめ》が多《おほ》いから、先生《せんせい》眼病《がんびやう》の方《はう》は少《すこ》し遣《や》つたが、内科《ないくわ》と来《き》てはからつぺた。外科《げくわ》なんと来《き》た日《ひ》にやあ、鬢付《びんつけ》へ水《みづ》を垂《た》らしてひやりと疵《きず》につける位《くらゐ》な処《ところ》。
鰯《いわし》の天窓《あたま》も信心《しん/″\》から、其《それ》でも命数《めいすう》の尽《つ》きぬ輩《やから》は本復《ほんぷく》するから、外《ほか》に竹庵《ちくあん》養仙《やうせん》木斎《もくさい》の居《ゐ》ない土地《とち》、相応《さうおう》に繁昌《はんじやう》した。
作品:高野聖
作者:泉鏡太郎
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底本:「新編 泉 鏡花集 第八巻」岩波書店
2004(平成16)年1月7日第1刷発行
底本の親本:「高野聖」左久良書房
1908(明治41)年2月20日
初出:「新小説 第五年第三巻」春陽堂
1900(明治33)年2月1日
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:砂場清隆
校正:門田裕志
2007年2月12日作成
青空文庫作成ファイル:
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《》:ルビ
(例)参謀本部《さんぼうほんぶ》
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(例)柳《やな》ヶ|瀬《せ》では
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