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高野聖その256
瀧《たき》に身《み》を投《な》げて死《し》なうより、旧《もと》の孤家《ひとつや》へ引返《ひツかへ》せ。汚《けがら》はしい慾《よく》のあればこそ恁《か》うなつた上《うへ》に※[#「足へん+厨」、第3水準1-92-39]躇《ちゆうちよ》をするわ、其《その》顔《かほ》を見《み》て声《こゑ》を聞《き》けば、渠等《かれら》夫婦《ふうふ》が同衾《ひとつね》するのに枕《まくら》を並《なら》べて差支《さしつか》へぬ、それでも汗《あせ》になつて修行《しゆぎやう》をして、坊主《ばうず》で果《は》てるよりは余程《よほど》の増《まし》ぢやと、思切《おもひき》つて戻《もど》らうとして、石《いし》を放《はな》れて身《み》を起《おこ》した、背後《うしろ》から一ツ背中《せなか》を叩《たゝ》いて、
(やあ、御坊様《ごばうさま》、)といはれたから、時《とき》が時《とき》なり、心《こゝろ》も心《こゝろ》、後暗《うしろぐら》いので喫驚《びつくり》して見《み》ると、閻王《えんわう》の使《つかひ》ではない、これが親仁《おやぢ》。
作品:高野聖
作者:泉鏡太郎
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底本:「新編 泉 鏡花集 第八巻」岩波書店
2004(平成16)年1月7日第1刷発行
底本の親本:「高野聖」左久良書房
1908(明治41)年2月20日
初出:「新小説 第五年第三巻」春陽堂
1900(明治33)年2月1日
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:砂場清隆
校正:門田裕志
2007年2月12日作成
青空文庫作成ファイル:
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)参謀本部《さんぼうほんぶ》
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(例)柳《やな》ヶ|瀬《せ》では
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
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(例)※[#「さんずい+散」、36-13]《しぶき》
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(例)ばら/\と
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