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高野聖その5
此《こ》の汽車《きしや》は新橋《しんばし》を昨夜《さくや》九時半《くじはん》に発《た》つて、今夕《こんせき》敦賀《つるが》に入《はい》らうといふ、名古屋《なごや》では正午《ひる》だつたから、飯《めし》に一折《ひとをり》の鮨《すし》を買《かつ》た。旅僧《たびそう》も私《わたし》と同《おなじ》く其《そ》の鮨《すし》を求《もと》めたのであるが、蓋《ふた》を開《あ》けると、ばら/\と海苔《のり》が懸《かゝ》つた、五目飯《ちらし》の下等《かとう》なので。
(やあ、人参《にんじん》と干瓢《かんぺう》ばかりだ、)と踈匆《そゝ》ツかしく絶叫《ぜつけう》した、私《わたし》の顔《かほ》を見《み》て旅僧《たびそう》は耐《こら》へ兼《か》ねたものと見《み》える、吃々《くつ/\》と笑《わら》ひ出《だ》した、固《もと》より二人《ふたり》ばかりなり、知己《ちかづき》にはそれから成《な》つたのだが、聞《き》けば之《これ》から越前《ゑちぜん》へ行《い》つて、派《は》は違《ちが》ふが永平寺《えいへいじ》に訪《たづ》ねるものがある、但《たゞ》し敦賀《つるが》に一泊《いつぱく》とのこと。
作品:高野聖
作者:泉鏡太郎
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底本:「新編 泉 鏡花集 第八巻」岩波書店
2004(平成16)年1月7日第1刷発行
底本の親本:「高野聖」左久良書房
1908(明治41)年2月20日
初出:「新小説 第五年第三巻」春陽堂
1900(明治33)年2月1日
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:砂場清隆
校正:門田裕志
2007年2月12日作成
青空文庫作成ファイル:
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)参謀本部《さんぼうほんぶ》
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(例)柳《やな》ヶ|瀬《せ》では
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(例)※[#「さんずい+散」、36-13]《しぶき》
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ばら/\と
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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