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高野聖その227
と仔細《しさい》は語《かた》らず唯《たゞ》思入《おもひい》つて然《さ》う言《い》ふたが、実《じつ》は以前《いぜん》から様子《やうす》でも知《し》れる、金釵玉簪《きんさぎよくさん》をかざし、蝶衣《てふい》を纒《まと》ふて、珠履《しゆり》を穿《うが》たば、正《まさ》に驪山《りさん》に入《い》つて陛下《へいか》と相抱《あひいだ》くべき豊肥妖艶《ほうひえうえん》の人《ひと》が其《その》男《をとこ》に対《たい》する取廻《とりまは》しの優《やさ》しさ、隔《へだて》なさ、親切《しんせつ》さに、人事《ひとごと》ながら嬉《うれ》しくて、思《おも》はず涙《なみだ》が流《なが》れたのぢや。
すると人《ひと》の腹《はら》の中《なか》を読《よ》みかねるやうな婦人《をんな》ではない、忽《たちま》ち様子《やうす》を悟《さと》つたかして、
作品:高野聖
作者:泉鏡太郎
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底本:「新編 泉 鏡花集 第八巻」岩波書店
2004(平成16)年1月7日第1刷発行
底本の親本:「高野聖」左久良書房
1908(明治41)年2月20日
初出:「新小説 第五年第三巻」春陽堂
1900(明治33)年2月1日
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:砂場清隆
校正:門田裕志
2007年2月12日作成
青空文庫作成ファイル:
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《》:ルビ
(例)参謀本部《さんぼうほんぶ》
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(例)柳《やな》ヶ|瀬《せ》では
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(例)※[#「さんずい+散」、36-13]《しぶき》
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ばら/\と
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