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高野聖その196
婦人《をんな》は早《は》や衣服《きもの》を引《ひツ》かけて椽側《えんがは》へ入《はい》つて来《き》て、突然《いきなり》帯《おび》を取《と》らうとすると、白痴《ばか》は惜《を》しさうに押《おさ》へて放《はな》さず、手《て》を上《あ》げて。婦人《をんな》の胸《むね》を圧《おさ》へやうとした。
邪慳《じやけん》に払《はら》ひ退《の》けて、屹《きツ》と睨《にら》むで見《み》せると、其《その》まゝがつくりと頭《かうべ》を垂《た》れた、総《すべ》ての光景《くわうけい》は行燈《あんどう》の火《ひ》も幽《かす》かに幻《まぼろし》のやうに見《み》えたが、炉《ろ》にくべた柴《しば》がひら/\と炎先《ほさき》を立《た》てたので、婦人《をんな》は衝《つ》と走《はし》つて入《はい》る。空《そら》の月《つき》のうらを行《ゆ》くと思《おも》ふあたり遥《はるか》に馬子唄《まごうた》が聞《きこ》えたて。)」[#「)」」はママ]
作品:高野聖
作者:泉鏡太郎
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底本:「新編 泉 鏡花集 第八巻」岩波書店
2004(平成16)年1月7日第1刷発行
底本の親本:「高野聖」左久良書房
1908(明治41)年2月20日
初出:「新小説 第五年第三巻」春陽堂
1900(明治33)年2月1日
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:砂場清隆
校正:門田裕志
2007年2月12日作成
青空文庫作成ファイル:
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《》:ルビ
(例)参謀本部《さんぼうほんぶ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)柳《やな》ヶ|瀬《せ》では
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(例)※[#「さんずい+散」、36-13]《しぶき》
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(例)ばら/\と
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