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高野聖その55
難儀《なんぎ》さも、蛇《へび》も、毛虫《けむし》も、鳥《とり》の卵《たまご》も、草《くさ》いきれも、記《しる》してある筈《はず》はないのぢやから、薩張《さツぱり》と畳《たゝ》んで懐《ふところ》に入《い》れて、うむと此《こ》の乳《ちゝ》の下《した》へ念仏《ねんぶつ》を唱《とな》へ込《こ》んで立直《たちなほ》つたは可《よ》いが、息《いき》も引《ひ》かぬ内《うち》に情無《なさけな》い長虫《ながむし》が路《みち》を切《き》つた。
其処《そこ》でもう所詮《しよせん》叶《かな》はぬと思《おも》つたなり、これは此《こ》の山《やま》の霊《れい》であらうと考《かんが》へて、杖《つえ》を棄《す》てゝ膝《ひざ》を曲《ま》げ、じり/\する地《つち》に両手《りやうて》をついて、
作品:高野聖
作者:泉鏡太郎
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底本:「新編 泉 鏡花集 第八巻」岩波書店
2004(平成16)年1月7日第1刷発行
底本の親本:「高野聖」左久良書房
1908(明治41)年2月20日
初出:「新小説 第五年第三巻」春陽堂
1900(明治33)年2月1日
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:砂場清隆
校正:門田裕志
2007年2月12日作成
青空文庫作成ファイル:
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)参謀本部《さんぼうほんぶ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)柳《やな》ヶ|瀬《せ》では
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「さんずい+散」、36-13]《しぶき》
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ばら/\と
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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