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高野聖その193
其時《そのとき》裏《うら》の山《やま》、向《むか》ふの峯《みね》、左右《さいう》前後《ぜんご》にすく/\とあるのが、一ツ一ツ嘴《くちばし》を向《む》け、頭《かしら》を擡《もた》げて、此《こ》の一|落《らく》の別天地《べツてんち》、親仁《おやぢ》を下手《したで》に控《ひか》へ、馬《うま》に面《めん》して彳《たゝず》んだ月下《げツか》の美女《びぢよ》の姿《すがた》を差覗《さしのぞ》くが如《ごと》く、陰々《いん/\》として深山《しんざん》の気《き》が籠《こも》つて来《き》た。
生《なま》ぬるい風《かぜ》のやうな気勢《けはひ》がすると思《おも》ふと、左《ひだり》の肩《かた》から片膚《かたはだ》を脱《ぬ》いたが、右《みぎ》の手《て》を脱《はづ》して、前《まへ》へ廻《まは》し、ふくらんだ胸《むね》のあたりで着《き》て居《ゐ》た其《そ》の単衣《ひとへ》を丸《まろ》げて持《も》ち、霞《かすみ》も絡《まと》はぬ姿《すがた》になつた。
作品:高野聖
作者:泉鏡太郎
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底本:「新編 泉 鏡花集 第八巻」岩波書店
2004(平成16)年1月7日第1刷発行
底本の親本:「高野聖」左久良書房
1908(明治41)年2月20日
初出:「新小説 第五年第三巻」春陽堂
1900(明治33)年2月1日
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:砂場清隆
校正:門田裕志
2007年2月12日作成
青空文庫作成ファイル:
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(例)参謀本部《さんぼうほんぶ》
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(例)柳《やな》ヶ|瀬《せ》では
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