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高野聖その69
何《ど》の道《みち》死《し》ぬるものなら一|足《あし》でも前《まへ》へ進《すゝ》んで、世間《せけん》の者《もの》が夢《ゆめ》にも知《し》らぬ血《ち》と泥《どろ》の大沼《おほぬま》の片端《かたはし》でも見《み》て置《お》かうと、然《さ》う覚悟《かくご》が極《きはま》つては気味《きみ》の悪《わる》いも何《なに》もあつたものぢやない、体中《からだぢう》珠数生《じゆずなり》になつたのを手当次第《てあたりしだい》に掻《か》い除《の》け毟《むし》り棄《す》て、抜《ぬ》き取《と》りなどして、手《て》を挙《あ》げ足《あし》を踏《ふ》んで、宛《まる》で躍《をど》り狂《くる》ふ形《かたち》で歩行《あるき》出《だ》した。
はじめの内《うち》は一|廻《まはり》も太《ふと》つたやうに思《おも》はれて痒《かゆ》さが耐《たま》らなかつたが、しまひにはげつそり痩《や》せたと、感《かん》じられてづきづき痛《いた》んでならぬ、其上《そのうへ》を用捨《ようしや》なく歩行《ある》く内《うち》にも入交《いりまじ》りに襲《おそ》ひをつた。
作品:高野聖
作者:泉鏡太郎
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底本:「新編 泉 鏡花集 第八巻」岩波書店
2004(平成16)年1月7日第1刷発行
底本の親本:「高野聖」左久良書房
1908(明治41)年2月20日
初出:「新小説 第五年第三巻」春陽堂
1900(明治33)年2月1日
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:砂場清隆
校正:門田裕志
2007年2月12日作成
青空文庫作成ファイル:
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(例)参謀本部《さんぼうほんぶ》
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(例)柳《やな》ヶ|瀬《せ》では
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