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高野聖その267
椽側《えんがは》へ遣《や》つて来《き》て、お嬢様《ぢやうさま》面白《おもしろ》いことをしてお目《め》に懸《か》けませう、無躾《ぶしつけ》でござりますが、私《わたし》の此《こ》の手《て》を握《にぎ》つて下《くだ》さりますと、彼《あ》の蜂《はち》の中《なか》へ突込《つツこ》んで、蜂《はち》を掴《つか》んで見《み》せましやう。お手《て》が障《さは》つた所《ところ》だけは刺《さ》しましても痛《いた》みませぬ、竹箒《たけばうき》で引払《ひツぱた》いては八|方《ぱう》へ散《ちらば》つて体中《からだぢう》に集《たか》られては夫《それ》は凌《しの》げませぬ即死《そくし》でございますがと、微笑《ほゝゑ》んで控《ひか》へる手《て》で無理《むり》に握《にぎ》つて貰《もら》ひ、つか/\と行《ゆ》くと、凄《すさま》じい虫《むし》の唸《うなり》、軈《やが》て取《と》つて返《かへ》した左《ひだり》の手《て》に熊蜂《くまばち》が七ツ八ツ、羽《は》ばたきをするのがある、脚《あし》を揮《ふる》ふのがある、中《なか》には掴《つか》んだ指《ゆび》の股《また》へ這出《はひだ》して居《ゐ》るのがあツた。
さあ、那《あ》の神様《かみさま》の手《て》が障《さは》れば鉄砲玉《てツぱうだま》でも通《とほ》るまいと、蜘蛛《くも》の巣《す》のやうに評判《ひやうばん》が八|方《ぱう》へ。
作品:高野聖
作者:泉鏡太郎
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底本:「新編 泉 鏡花集 第八巻」岩波書店
2004(平成16)年1月7日第1刷発行
底本の親本:「高野聖」左久良書房
1908(明治41)年2月20日
初出:「新小説 第五年第三巻」春陽堂
1900(明治33)年2月1日
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:砂場清隆
校正:門田裕志
2007年2月12日作成
青空文庫作成ファイル:
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《》:ルビ
(例)参謀本部《さんぼうほんぶ》
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(例)柳《やな》ヶ|瀬《せ》では
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(例)ばら/\と
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