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高野聖その282
見送《みおく》ると小《ちい》さくなつて、一|坐《ざ》の大山《おほやま》の背後《うしろ》へかくれたと思《おも》ふと、油旱《あぶらでり》の焼《や》けるやうな空《そら》に、其《そ》の山《やま》の巓《いたゞき》から、すく/\と雲《くも》が出《で》た、瀧《たき》の音《おと》も静《しづ》まるばかり殷々《ゐん/\》として雷《らい》の響《ひゞき》。
藻抜《もぬ》けのやうに立《た》つて居《ゐ》た、私《わし》が魂《たましひ》は身《み》に戻《もど》つた、其方《そなた》を拝《をが》むと斉《ひと》しく、杖《つえ》をかい込《こ》み、小笠《をがさ》を傾《かたむ》け、踵《くびす》を返《かへ》すと慌《あはたゞ》しく、一|散《さん》に駆《か》け下《お》りたが、里《さと》に着《つ》いた時分《じぶん》は山《やま》は驟雨《ゆふだち》、親仁《おやぢ》が婦人《をんな》に齎《もた》らした鯉《こひ》もこのために活《い》きて孤家《ひとつや》に着《つ》いたらうと思《おも》ふ大雨《おほあめ》であつた。」
作品:高野聖
作者:泉鏡太郎
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底本:「新編 泉 鏡花集 第八巻」岩波書店
2004(平成16)年1月7日第1刷発行
底本の親本:「高野聖」左久良書房
1908(明治41)年2月20日
初出:「新小説 第五年第三巻」春陽堂
1900(明治33)年2月1日
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:砂場清隆
校正:門田裕志
2007年2月12日作成
青空文庫作成ファイル:
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)参謀本部《さんぼうほんぶ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)柳《やな》ヶ|瀬《せ》では
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「さんずい+散」、36-13]《しぶき》
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ばら/\と
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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