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高野聖その254
真中《まんなか》に先《ま》づ鰐鮫《わにざめ》が口《くち》をあいたやうな尖《さき》のとがつた黒《くろ》い大巌《おほいは》が突出《つきで》て居《ゐ》ると、上《うへ》から流《なが》れて来《く》る颯《さツ》と瀬《せ》の早《はや》い谷川《たにがは》が、之《これ》に当《あた》つて両《ふたつ》に岐《わか》れて、凡《およ》そ四|丈《ぢやう》ばかりの瀧《たき》になつて哄《どツ》と落《お》ちて、又《また》暗碧《あんぺき》に白布《しろぬの》を織《お》つて矢《や》を射《ゐ》るやうに里《さと》へ出《で》るのぢやが、其《その》巌《いは》にせかれた方《はう》は六|尺《しやく》ばかり、之《これ》は川《かは》の一|巾《はゞ》を裂《さ》いて糸《いと》も乱《みだ》れず、一|方《ぱう》は巾《はゞ》が狭《せま》い、三|尺《じやく》位《ぐらゐ》、この下《した》には雑多《ざツた》な岩《いは》が並《なら》ぶと見《み》えて、ちら/\ちら/\と玉《たま》の簾《すだれ》を百千《ひやくせん》に砕《くだ》いたやう、件《くだん》の鰐鮫《わにざめ》の巌《いは》に、すれつ、縺《もつ》れつ。」
第二十五
作品:高野聖
作者:泉鏡太郎
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底本:「新編 泉 鏡花集 第八巻」岩波書店
2004(平成16)年1月7日第1刷発行
底本の親本:「高野聖」左久良書房
1908(明治41)年2月20日
初出:「新小説 第五年第三巻」春陽堂
1900(明治33)年2月1日
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:砂場清隆
校正:門田裕志
2007年2月12日作成
青空文庫作成ファイル:
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)参謀本部《さんぼうほんぶ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)柳《やな》ヶ|瀬《せ》では
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「さんずい+散」、36-13]《しぶき》
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ばら/\と
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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