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高野聖その87
婦人《をんな》は暫《しばら》く考《かんが》へて居《ゐ》たが、弗《ふ》と傍《わき》を向《む》いて布《ぬの》の袋《ふくろ》を取《と》つて、膝《ひざ》のあたりに置《お》いた桶《をけ》の中《なか》へざら/\と一|巾《はゞ》、水《みづ》を溢《こぼ》すやうにあけて縁《ふち》をおさへて、手《て》で掬《すく》つて俯向《うつむ》いて見《み》たが、
(あゝ、お泊《と》め申《まを》しましやう、丁度《ちやうど》炊《た》いてあげますほどお米《こめ》もございますから、其《それ》に夏《なつ》のことで、山家《やまが》は冷《ひ》えましても夜《よる》のものに御不自由《ごふじいう》もござんすまい。さあ、左《と》も右《かく》もあなたお上《あが》り遊《あそ》ばして。)
作品:高野聖
作者:泉鏡太郎
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底本:「新編 泉 鏡花集 第八巻」岩波書店
2004(平成16)年1月7日第1刷発行
底本の親本:「高野聖」左久良書房
1908(明治41)年2月20日
初出:「新小説 第五年第三巻」春陽堂
1900(明治33)年2月1日
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:砂場清隆
校正:門田裕志
2007年2月12日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)参謀本部《さんぼうほんぶ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)柳《やな》ヶ|瀬《せ》では
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「さんずい+散」、36-13]《しぶき》
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ばら/\と
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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