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高野聖その241
むさゝびか知《し》らぬがきツ/\といつて屋《や》の棟《むね》へ、軈《やが》て凡《およ》そ小山《こやま》ほどあらうと気取《けど》られるのが胸《むね》を圧《お》すほどに近《ちかづ》いて来《き》て、牛《うし》が啼《な》いた。遠《とほ》く彼方《かなた》からひた/\と小刻《こきざみ》に駈《か》けて来《く》るのは、二|本足《ほんあし》に草鞋《わらぢ》を穿《は》いた獣《けもの》と思《おも》はれた、いやさまざまにむら/\と家《いへ》のぐるりを取巻《とりま》いたやうで、二十三十のものゝ鼻息《はないき》、羽音《はおと》、中《なか》には囁《さゝや》いて居《ゐ》るのがある。恰《あたか》も何《なに》よ、それ畜生道《ちくしやうだう》の地獄《ぢごく》の絵《ゑ》を、月夜《つきよ》に映《うつ》したやうな怪《あやし》の姿《すがた》が板戸《いたど》一|重《へ》、魑魅魍魎《ちみまうりやう》といふのであらうか、ざわ/\と木《こ》の葉《は》が戦《そよ》ぐ気色《けしき》だつた。
息《いき》を凝《こら》すと、納戸《なんど》で、
作品:高野聖
作者:泉鏡太郎
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底本:「新編 泉 鏡花集 第八巻」岩波書店
2004(平成16)年1月7日第1刷発行
底本の親本:「高野聖」左久良書房
1908(明治41)年2月20日
初出:「新小説 第五年第三巻」春陽堂
1900(明治33)年2月1日
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:砂場清隆
校正:門田裕志
2007年2月12日作成
青空文庫作成ファイル:
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《》:ルビ
(例)参謀本部《さんぼうほんぶ》
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