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高野聖その266
一|時《しきり》彼《あ》の藪《やぶ》の前《まへ》にある枇杷《びは》の古木《ふるき》へ熊蜂《くまばち》が来《き》て可恐《おそろし》い大《おほき》な巣《す》をかけた。
すると、医者《いしや》の内弟子《うちでし》で薬局《やくきよく》、拭掃除《ふきさうぢ》もすれば総菜畠《さうざいばたけ》の芋《いも》も堀《ほ》る、近《ちか》い所《ところ》へは車夫《しやふ》も勤《つと》めた、下男《げなん》兼帯《けんたい》の熊蔵《くまざう》といふ、其頃《そのころ》二十四五|歳《さい》、稀塩散《きゑんさん》に単舎利別《たんしやりべつ》を混《ま》ぜたのを瓶《びん》に盗《ぬす》んで、内《うち》が吝嗇《けち》ぢやから見附《みつ》かると叱《しか》られる、之《これ》を股引《もゝひき》や袴《はかま》と一|所《しよ》に戸棚《とだな》の上《うへ》に載《の》せて置《お》いて、隙《ひま》さへあればちびり/\と飲《の》んでた男《をとこ》が、庭掃除《にはさうじ》をするといつて、件《くだん》の蜂《はち》の巣《す》を見《み》つけたつけ。
作品:高野聖
作者:泉鏡太郎
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底本:「新編 泉 鏡花集 第八巻」岩波書店
2004(平成16)年1月7日第1刷発行
底本の親本:「高野聖」左久良書房
1908(明治41)年2月20日
初出:「新小説 第五年第三巻」春陽堂
1900(明治33)年2月1日
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:砂場清隆
校正:門田裕志
2007年2月12日作成
青空文庫作成ファイル:
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《》:ルビ
(例)参謀本部《さんぼうほんぶ》
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(例)柳《やな》ヶ|瀬《せ》では
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(例)※[#「さんずい+散」、36-13]《しぶき》
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(例)ばら/\と
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