TOP
高野聖その86
(其《それ》はございません。)といひながら目《め》たゝきもしないで清《すゞ》しい目《め》で私《わし》の顔《かほ》をつく/″\見《み》て居《ゐ》た。
(いえもう何《なん》でございます、実《じつ》は此先《このさき》一|町《ちやう》行《ゆ》け、然《さ》うすれば上段《じやうだん》の室《へや》に寝《ね》かして一|晩《ばん》扇《あふ》いで居《ゐ》て其《それ》で功徳《くどく》のためにする家《うち》があると承《うけたまは》りましても、全《まツた》くの処《ところ》一|足《あし》も歩行《ある》けますのではございません、何処《どこ》の物置《ものおき》でも馬小屋《うまごや》の隅《すみ》でも宜《よ》いのでございますから後生《ごしやう》でございます。)と前刻《さツき》馬《うま》の嘶《いなゝ》いたのは此家《こゝ》より外《ほか》にはないと思《おも》つたから言《い》つた。
作品:高野聖
作者:泉鏡太郎
次へ
底本:「新編 泉 鏡花集 第八巻」岩波書店
2004(平成16)年1月7日第1刷発行
底本の親本:「高野聖」左久良書房
1908(明治41)年2月20日
初出:「新小説 第五年第三巻」春陽堂
1900(明治33)年2月1日
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:砂場清隆
校正:門田裕志
2007年2月12日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
-------------------------------------------------------
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)参謀本部《さんぼうほんぶ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)柳《やな》ヶ|瀬《せ》では
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「さんずい+散」、36-13]《しぶき》
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ばら/\と
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
-------------------------------------------------------