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高野聖その270
今《いま》の白痴《ばか》も、件《くだん》の評判《ひやうばん》の高《たか》かつた頃《ころ》、医者《いしや》の内《うち》へ来《き》た病人《びやうにん》、其頃《そのころ》は未《ま》だ子供《こども》、朴訥《ぼくとつ》な父親《てゝおや》が附添《つきそ》ひ、髪《かみ》の長《なが》い、兄貴《あにき》がおぶつて山《やま》から出《で》て来《き》た。脚《あし》に難渋《なんじう》な腫物《しゆもつ》があつた、其《そ》の療治《れうぢ》を頼《たの》んだので。
固《もと》より一|室《ま》を借受《かりう》けて、逗留《たうりう》をして居《を》つたが、かほどの悩《なやみ》は大事《おほごと》ぢや、血《ち》も大分《だいぶん》に出《だ》さねばならぬ殊《こと》に子供《こども》手《て》を下《お》ろすには体《からだ》に精分《せいぶん》をつけてからと、先《ま》づ一|日《にち》に三ツづゝ鶏卵《たまご》を飲《の》まして、気休《きやす》めに膏薬《かうやく》を張《は》つて置《お》く。
作品:高野聖
作者:泉鏡太郎
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底本:「新編 泉 鏡花集 第八巻」岩波書店
2004(平成16)年1月7日第1刷発行
底本の親本:「高野聖」左久良書房
1908(明治41)年2月20日
初出:「新小説 第五年第三巻」春陽堂
1900(明治33)年2月1日
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:砂場清隆
校正:門田裕志
2007年2月12日作成
青空文庫作成ファイル:
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)参謀本部《さんぼうほんぶ》
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(例)柳《やな》ヶ|瀬《せ》では
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
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(例)※[#「さんずい+散」、36-13]《しぶき》
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ばら/\と
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