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高野聖その27
半町《はんちやう》ばかり行《ゆ》くと、路《みち》が恁《か》う急《きふ》に高《たか》くなつて、上《のぼ》りが一《いつ》ヶ|処《しよ》、横《よこ》から能《よ》く見《み》えた、弓形《ゆみなり》で宛《まる》で土《つち》で勅使橋《ちよくしばし》がかゝつてるやうな。上《うへ》を見《み》ながら、之《これ》へ足《あし》を踏懸《ふみか》けた時《とき》、以前《いぜん》の薬売《くすりうり》がすた/\遣《や》つて来《き》て追着《おひつ》いたが。
別《べつ》に言葉《ことば》も交《か》はさず、又《また》ものをいつたからといふて、返事《へんじ》をする気《き》は此方《こツち》にもない。何処《どこ》までも人《ひと》を凌《しの》いだ仕打《しうち》な薬売《くすりうり》は流盻《しりめ》にかけて故《わざ》とらしう私《わし》を通越《とほりこ》して、すた/\前《まへ》へ出《で》て、ぬつと小山《こやま》のやうな路《みち》の突先《とつさき》へ蝙蝠傘《かうもりがさ》を差《さ》して立《た》つたが、其《その》まゝ向《むか》ふへ下《お》りて見《み》えなくなる。
作品:高野聖
作者:泉鏡太郎
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底本:「新編 泉 鏡花集 第八巻」岩波書店
2004(平成16)年1月7日第1刷発行
底本の親本:「高野聖」左久良書房
1908(明治41)年2月20日
初出:「新小説 第五年第三巻」春陽堂
1900(明治33)年2月1日
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:砂場清隆
校正:門田裕志
2007年2月12日作成
青空文庫作成ファイル:
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