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高野聖その123
其処《そこ》は早《は》や一|面《めん》の岩《いは》で、岩《いは》の上《うへ》へ谷川《たにがは》の水《みづ》がかゝつて此処《ここ》によどみを造《つく》つて居《ゐ》る、川巾《かははば》は一|間《けん》ばかり、水《みづ》に望《のぞ》めば音《おと》は然《さ》までにもないが、美《うつく》しさは玉《たま》を解《と》いて流《なが》したやう、却《かへ》つて遠《とほ》くの方《はう》で凄《すさま》じく岩《いは》に砕《くだ》ける響《ひゞき》がする。
向《むか》ふ岸《ぎし》は又《また》一|坐《ざ》の山《やま》の裾《すそ》で、頂《いたゞき》の方《はう》は真暗《まつくら》だが、山《やま》の端《は》から其《その》山腹《さんぷく》を射《い》る月《つき》の光《ひかり》に照《て》らし出《だ》された辺《あたり》からは大石《おほいし》小石《こいし》、栄螺《さゞえ》のやうなの、六|尺角《しやくかく》に切出《きりだ》したの、剣《つるぎ》のやうなのやら鞠《まり》の形《かたち》をしたのやら、目《め》の届《とゞ》く限《かぎ》り不残《のこらず》岩《いは》で、次第《しだい》に大《おほき》く水《みづ》に浸《ひた》つたのは唯《ただ》小山《こやま》のやう。」
作品:高野聖
作者:泉鏡太郎
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底本:「新編 泉 鏡花集 第八巻」岩波書店
2004(平成16)年1月7日第1刷発行
底本の親本:「高野聖」左久良書房
1908(明治41)年2月20日
初出:「新小説 第五年第三巻」春陽堂
1900(明治33)年2月1日
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:砂場清隆
校正:門田裕志
2007年2月12日作成
青空文庫作成ファイル:
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《》:ルビ
(例)参謀本部《さんぼうほんぶ》
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(例)柳《やな》ヶ|瀬《せ》では
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