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高野聖その62
見《み》ると海鼠《なまこ》を裂《さい》たやうな目《め》も口《くち》もない者《もの》ぢやが、動物《どうぶつ》には違《ちが》ひない。不気味《ぶきみ》で投出《なげだ》さうとするとずる/″\と辷《すべ》つて指《ゆび》の尖《さき》へ吸《すひ》ついてぶらりと下《さが》つた其《そ》の放《はな》れた指《ゆび》の尖《さき》から真赤《まつか》な美《うつく》しい血《ち》が垂々《たら/\》と出《で》たから、吃驚《びツくり》して目《め》の下《した》へ指《ゆび》をつけてじつと見《み》ると、今《いま》折曲《をりま》げた肱《ひぢ》の処《ところ》へつるりと垂懸《たれかゝ》つて居《ゐ》るのは同《おなじ》形《かたち》をした、巾《はゞ》が五|分《ぶ》、丈《たけ》が三|寸《ずん》ばかりの山海鼠《やまなまこ》。
呆気《あつけ》に取《とら》れて見《み》る/\内《うち》に、下《した》の方《はう》から縮《ちゞ》みながら、ぶくぶくと太《ふと》つて行《ゆ》くのは生血《いきち》をしたゝかに吸込《すひこ》む所為《せゐ》で、濁《にご》つた黒《くろ》い滑《なめ》らかな肌《はだ》に茶褐色《ちやかツしよく》の縞《しま》をもつた、痣胡瓜《いぼきうり》のやうな血《ち》を取《と》る動物《どうぶつ》、此奴《こいつ》は蛭《ひる》ぢやよ。
作品:高野聖
作者:泉鏡太郎
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底本:「新編 泉 鏡花集 第八巻」岩波書店
2004(平成16)年1月7日第1刷発行
底本の親本:「高野聖」左久良書房
1908(明治41)年2月20日
初出:「新小説 第五年第三巻」春陽堂
1900(明治33)年2月1日
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:砂場清隆
校正:門田裕志
2007年2月12日作成
青空文庫作成ファイル:
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(例)参謀本部《さんぼうほんぶ》
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(例)ばら/\と
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