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湖南の扇その44
作品:湖南の扇
作者:芥川龍之介
「何にするもんか? 食うだけだよ。この辺じゃ未だにこれを食えば、無病息災になると思っているんだ。」
譚は晴れ晴れと微笑したまま、丁度この時テエブルを離れた二三人の芸者に挨拶《あいさつ》した。が、含芳の立ちかかるのを見ると、殆《ほとん》ど憐《あわれ》みを乞うように何か笑ったりしゃべったりした。のみならずしまいには片手を挙げ、正面の僕を指さしたりした。含芳はちょっとためらった後《のち》、もう一度やっと微笑を浮かべ、テエブルの前に腰を下した。僕は大いに可愛《かわい》かったから、一座の人目に触れないようにそっと彼女の手を握っていてやった。
「こんな迷信こそ国辱だね。僕などは医者と言う職業上、ずいぶんやかましくも言っているんだが………」
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底本:「昭和文学全集 第1巻」小学館
1987(昭和62)年5月1日初版第1刷発行
親本:岩波書店刊「芥川龍之介全集」
1977(昭和52)年〜1978(昭和53)年
入力:j.utiyama
校正:柳沢成雄
1998年10月20日公開
2007年2月11日修正
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《》:ルビ
(例)広東《かんとん》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)当時|長江《ちょうこう》に
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(例)※[#「さんずい+元」、第3水準1-86-54]江丸《げんこうまる》
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