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湖南の扇その37
作品:湖南の扇
作者:芥川龍之介
僕等の話題になったことは含芳自身にもわかったらしかった。彼女は現に僕の顔へ時々素早い目をやりながら、早口に譚と問答をし出した。けれども唖《おうし》に変らない僕はこの時もやはりいつもの通り、唯《ただ》二人の顔色を見比べているより外はなかった。
「君はいつ長沙へ来たと尋《き》くからね、おととい来たばかりだと返事をすると、その人もおとといは誰《たれ》かの出迎いに埠頭《ふとう》まで行ったと言っているんだ。」
譚はこう言う通訳をした後《のち》、もう一度含芳へ話しかけた。が、彼女は頬笑《ほほえ》んだきり、子供のようにいやいや[#「いやいや」に傍点]をしていた。
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底本:「昭和文学全集 第1巻」小学館
1987(昭和62)年5月1日初版第1刷発行
親本:岩波書店刊「芥川龍之介全集」
1977(昭和52)年〜1978(昭和53)年
入力:j.utiyama
校正:柳沢成雄
1998年10月20日公開
2007年2月11日修正
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)広東《かんとん》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)当時|長江《ちょうこう》に
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「さんずい+元」、第3水準1-86-54]江丸《げんこうまる》
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