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湖南の扇その24


作品:湖南の扇
作者:芥川龍之介



「その仲間の頭目は黄《こう》六一と言ってね。――ああ、そいつも斬られたんだ。――これが又右の手には小銃を持ち、左の手にはピストルを持って一時に二人射殺すと言う、湖南《こなん》でも評判の悪党だったんだがね。………」
 譚は忽《たちま》ち黄六一の一生の悪業を話し出した。彼の話は大部分新聞記事の受け売りらしかった。しかし幸い血の※[#「均のつくり」、第3水準1-14-75]《におい》よりもロマンティックな色彩に富んだものだった。黄の平生密輸入者たちに黄老爺《こうろうや》と呼ばれていた話、又|湘譚《しょうたん》の或|商人《あきんど》から三千元を強奪した話、又|腿《もも》に弾丸を受けた樊阿七《はんあしち》と言う副頭目を肩に蘆林譚《ろりんたん》を泳ぎ越した話、又|岳州《がくしゅう》の或山道に十二人の歩兵を射倒した話、――譚は殆ど黄六一を崇拝しているのかと思う位、熱心にそんなことを話しつづけた。
「何しろ君、そいつは殺人|※[#「てへん+虜」、第3水準1-85-1]人《りょじん》百十七件と言うんだからね。」



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底本:「昭和文学全集 第1巻」小学館
   1987(昭和62)年5月1日初版第1刷発行
親本:岩波書店刊「芥川龍之介全集」
   1977(昭和52)年〜1978(昭和53)年
入力:j.utiyama
校正:柳沢成雄
1998年10月20日公開
2007年2月11日修正
青空文庫作成ファイル:
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