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湖南の扇その4
作品:湖南の扇
作者:芥川龍之介
※[#「さんずい+元」、第3水準1-86-54]江丸は運命に従うようにじりじり桟橋へ近づいて行った。同時に又|蒼《あお》い湘江《しょうこう》の水もじりじり幅を縮めて行った。すると薄汚い支那人が一人、提籃《ていらん》か何かをぶら下げたなり、突然僕の目の下からひらりと桟橋へ飛び移った。それは実際人間よりも、蝗《いなご》に近い早業だった。が、あっと思ううちに今度は天秤捧《てんびんぼう》を横たえたのが見事に又水を跳《おど》り越えた。続いて二人、五人、八人、――見る見る僕の目の下はのべつに桟橋へ飛び移る無数の支那人に埋《うず》まってしまった。と思うと船はいつの間にかもう赤煉瓦の西洋家屋や葉柳などの並んだ前にどっしりと横着けに聳《そび》えていた。
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底本:「昭和文学全集 第1巻」小学館
1987(昭和62)年5月1日初版第1刷発行
親本:岩波書店刊「芥川龍之介全集」
1977(昭和52)年〜1978(昭和53)年
入力:j.utiyama
校正:柳沢成雄
1998年10月20日公開
2007年2月11日修正
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)広東《かんとん》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)当時|長江《ちょうこう》に
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「さんずい+元」、第3水準1-86-54]江丸《げんこうまる》
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