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湖南の扇その16


作品:湖南の扇
作者:芥川龍之介



   * * * * *


 僕は翌々十八日の午後、折角の譚の勧めに従い、湘江を隔てた嶽麓《がくろく》へ麓山寺《ろくざんじ》や愛晩亭を見物に出かけた。
 僕等を乗せたモオタア・ボオトは在留日本人の「中の島」と呼ぶ三角洲《さんかくす》を左にしながら、二時前後の湘江を走って行った。からりと晴れ上った五月の天気は両岸の風景を鮮かにしていた。僕等の右に連った長沙も白壁や瓦屋根の光っているだけにきのうほど憂鬱《ゆううつ》には見えなかった。まして柑類《かんるい》の木の茂った、石垣の長い三角洲はところどころに小ぢんまりした西洋家屋を覗《のぞ》かせたり、その又西洋家屋の間に綱に吊《つ》った洗濯ものを閃《ひらめ》かせたり、如何にも活《い》き活《い》きと横たわっていた。



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底本:「昭和文学全集 第1巻」小学館
   1987(昭和62)年5月1日初版第1刷発行
親本:岩波書店刊「芥川龍之介全集」
   1977(昭和52)年〜1978(昭和53)年
入力:j.utiyama
校正:柳沢成雄
1998年10月20日公開
2007年2月11日修正
青空文庫作成ファイル:
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《》:ルビ
(例)広東《かんとん》

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(例)当時|長江《ちょうこう》に

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   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「さんずい+元」、第3水準1-86-54]江丸《げんこうまる》
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