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湖南の扇その21
作品:湖南の扇
作者:芥川龍之介
「ああ、美人だ。美人だ。」
彼等を乗せたモオタア・ボオトはいつかもう十間ほど離れていた。僕はやっと体を※[#「てへん+丑」、第4水準2-12-93]《ね》じまげ、オペラ・グラスの度を調節した。同時に又突然向うのボオトのぐいと後《あと》ずさりをする錯覚を感じた。「あの女」は円い風景の中にちょっと顔を横にしたまま、誰かの話を聞いていると見え、時々微笑を洩《も》らしていた。顋《あご》の四角い彼女の顔は唯目の大きいと言う以外に格別美しいとは思われなかった。が、彼女の前髪や薄い黄色の夏衣裳《なついしょう》の川風に波を打っているのは遠目にも綺麗《きれい》に違いなかった。
「見えたか?」
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底本:「昭和文学全集 第1巻」小学館
1987(昭和62)年5月1日初版第1刷発行
親本:岩波書店刊「芥川龍之介全集」
1977(昭和52)年〜1978(昭和53)年
入力:j.utiyama
校正:柳沢成雄
1998年10月20日公開
2007年2月11日修正
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《》:ルビ
(例)広東《かんとん》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)当時|長江《ちょうこう》に
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「さんずい+元」、第3水準1-86-54]江丸《げんこうまる》
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