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湖南の扇その30
作品:湖南の扇
作者:芥川龍之介
* * * * *
僕はやはり同じ日の晩、或|妓館《ぎかん》の梯子段《はしごだん》を譚と一しょに上って行った。
僕等の通った二階の部屋は中央に据えたテエブルは勿論、椅子《いす》も、唾壺《たんつぼ》も、衣裳箪笥《いしょうだんす》も、上海や漢口《かんこう》の妓館にあるのと殆《ほとん》ど変りは見えなかった。が、この部屋の天井の隅には針金細工の鳥籠《とりかご》が一つ、硝子窓《がらすまど》の側にぶら下げてあった。その又籠の中には栗鼠《りす》が二匹、全然何の音も立てずに止まり木を上ったり下ったりしていた。それは窓や戸口に下げた、赤い更紗《さらさ》の布《きれ》と一しょに珍しい見ものに違いなかった。しかし少くとも僕の目には気味の悪い見ものにも違いなかった。
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底本:「昭和文学全集 第1巻」小学館
1987(昭和62)年5月1日初版第1刷発行
親本:岩波書店刊「芥川龍之介全集」
1977(昭和52)年〜1978(昭和53)年
入力:j.utiyama
校正:柳沢成雄
1998年10月20日公開
2007年2月11日修正
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《》:ルビ
(例)広東《かんとん》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)当時|長江《ちょうこう》に
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(例)※[#「さんずい+元」、第3水準1-86-54]江丸《げんこうまる》
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