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湖南の扇その3


作品:湖南の扇
作者:芥川龍之介



 僕はその何分か前に甲板の欄干《らんかん》へ凭《よ》りかかったまま、だんだん左舷《さげん》へ迫って来る湖南の府城を眺めていた。高い曇天の山の前に白壁や瓦屋根《かわらやね》を積み上げた長沙は予想以上に見すぼらしかった。殊に狭苦しい埠頭《ふとう》のあたりは新しい赤煉瓦《あかれんが》の西洋家屋や葉柳《はやなぎ》なども見えるだけに殆《ほとん》ど飯田河岸《いいだがし》と変らなかった。僕は当時|長江《ちょうこう》に沿うた大抵の都会に幻滅していたから、長沙にも勿論豚の外に見るもののないことを覚悟していた。しかしこう言う見すぼらしさはやはり僕には失望に近い感情を与えたのに違いなかった。




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底本:「昭和文学全集 第1巻」小学館
   1987(昭和62)年5月1日初版第1刷発行
親本:岩波書店刊「芥川龍之介全集」
   1977(昭和52)年〜1978(昭和53)年
入力:j.utiyama
校正:柳沢成雄
1998年10月20日公開
2007年2月11日修正
青空文庫作成ファイル:
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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)広東《かんとん》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)当時|長江《ちょうこう》に

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「さんずい+元」、第3水準1-86-54]江丸《げんこうまる》
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