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湖南の扇その32
作品:湖南の扇
作者:芥川龍之介
譚は鴇婦と話した後《のち》、大きい紅木《こうぼく》のテエブルヘ僕と差向いに腰を下ろした。それから彼女の運んで来た活版刷の局票の上へ芸者の名前を書きはじめた。張湘娥《ちょうしょうが》、王巧雲《おうこううん》、含芳《がんほう》、酔玉楼《すいぎょくろう》、愛媛々《あいえんえん》、――それ等はいずれも旅行者の僕には支那小説の女主人公にふさわしい名前ばかりだった。
「玉蘭も呼ぼうか?」
僕は返事をしたいにもしろ、生憎《あいにく》鴇婦の火を擦ってくれる巻煙草の一本を吸いつけていた。が、譚はテエブル越しにちょっと僕の顔を見たぎり、無頓着に筆を揮《ふる》ったらしかった。
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底本:「昭和文学全集 第1巻」小学館
1987(昭和62)年5月1日初版第1刷発行
親本:岩波書店刊「芥川龍之介全集」
1977(昭和52)年〜1978(昭和53)年
入力:j.utiyama
校正:柳沢成雄
1998年10月20日公開
2007年2月11日修正
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《》:ルビ
(例)広東《かんとん》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)当時|長江《ちょうこう》に
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(例)※[#「さんずい+元」、第3水準1-86-54]江丸《げんこうまる》
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